最終更新日 2025年12月31日 by nozawa88888@gmail.com
ご実家に20年、30年と眠っていたピアノを「引き継ぐ」。
「最後に調律をしたのはいつだっけ」
「もう使えないのでは」と処分についても頭をよぎります。
ただ、そう簡単に決断できない、ご両親が大変な思いをして買ってくたものです。
でも、いざ修理となると費用がいくらになるのか見当もつかない。
ここがクリアになる。
あるいは、予算の範囲内・それと大して変わらない、ということがわかれば心理的負担はだいぶ軽くなりますね。
問題は「修繕内容」と「その費用」です。
例えば、修繕費用が100万円を超えると言われたら・・・。
まあ手離しますね、そのピアノを。
私が逆の立場でもそうします。
「ピアノ修繕費用の見積もり金額」は会社・工房によって大きく変わることは珍しくありません。
今回は、長年調律をせずに放置していたピアノの修繕内容とその費用についてのお話です。
135万円の修繕費用は必要か?
ピアノはBELTON(ベルトーン)という珍しいピアノ。
富士楽器製造という会社(今はありません)の国産ピアノです。
1968年に製造されたピアノです。
現在お住まいの都内マンションを引き払い、新しいマンションへ。
このピアノをどうするか・・・、処分するか、必要なメンテナンスをして一緒に新居に連れていくか。
最初の修繕見積もり金額は
¥1,359,600
お客様と一緒に「ピアノの状態」と「見積もり書」を確認しました。
最初に見積もりを出した会社が「法外な」「ぼったくり的な」金額・内容を提案しているわけではないのですね。
そのベルトーンピアノの状態から、「フルスペック」の修繕をすれば、その金額になるのです。
多くの方にとってピアノは「数多ある生活を構成する要素の1つ」に過ぎません。
技術者はややもすると「独善的」になりがちで、そのお客さんにとって「ピアノ」はどんな位置づけなのか?の想像力が働かないことがあります。
プロのピアニストとピアノ愛好家では、ピアノへ求める性能も、それにかけられる予算も違って当然です。
「音の出ないところが治って、ピアノがキレイになってくれれば良い」
その方の要望を受けて私が提案したのは以下の通り。
3パターンの見積書。
プランA 1,359,600円(元の他社見積もり)
プランB 946,000円
プランC 561,000円
プランD 187,000円
今回はプランDの内容で修繕。
このお客様の「音が出て、綺麗になれば・・・」というご要望を考えれば、妥当な修繕内容だと思います。
とても喜んででいただけましたし、このベルトーンピアノにとっても良かったと思いますね。
最終的には”18万7000円”のプランに
多くの方が不安に感じるのは「修繕費用」の相場がわからず、「長く放置した分、法外な値段を請求されるのではないか?」という不安・疑念が拭えないからでしょう。
また、修繕業者とのやり取りに不安を感じる -ピアノの専門知識を持ち合わせていないのですから当然です- ことも大きい。
さて、今回のケースです。
¥1,359,600-の修理見積が¥187,000になりました。
このことだけ聞くと、「何か妥協したのかな」「部品は粗悪品で対応?」「長い目で見るとしっかりと費用をかけた方が良かったのでは・・・」
そう思いますね。
そんなことはございません。
「まだまだ使える部品はそのまま使う(むしろその方が良い場合も多い)」
「ただし、楽器としての機能に問題がある箇所は修繕する」
「見た目も多少の傷はそのままに、しかし汚れはしっかり落として美しくする」
こうした方針で、お客さまとお話した結果です。
<問い合わせ・ご相談>
長年放置してあったご実家のピアノに関するご相談は(フォーム)
ご実家で長年放置したピアノ”、その修繕費用・内容を「解体」すると・・・
今回の修繕内容は「ほとんどすべてのピアノ」に当てはまります。
この内容を解きほぐしていくと、”ブラックボックス”だった費用の概要がご理解いただけるのはないかと思います。
ピアノの修繕内容は大きく分けて4つ。
「本体(弦・響板等)」
「アクション」
「鍵盤」
「その他(調律・クリーニング等)」
1つづつ見ていきましょう。
(なるべく専門用語の使用を避けますが、少々専門的になります、お許しを)
本体(弦・響板など)
弦交換の必要性があるピアノは極めて稀です。
悪環境に長年置かれていたピアノで、「弦が錆だらけ」のピアノ。
こうしたピアノの弦は交換の必要性がありますが、私の経験から言ってもほとんどありません。
むしろ、チューニングピンや響板に問題があって(弦は響板の上に乗っている構造になっています)、そちらを修繕する”ついで”に弦も交換するケースが大半。
響板の方は、「響板割れ」や「響棒剥がれ」といった板そのものに問題があるケース。
今回のピアノもそうですが、響板が割れていると酷い雑音がしたり、調律が安定しないことがあります。
「響板はピアノの心臓部」と言われるのは、ピアノという”複雑な”構造物の土台になっているから。
この「本体の修繕」は作業内容が大がかりになることから、費用も掛かります。
¥350,000~¥400,000
中古ピアノ・リニューアルピアノが購入できる費用です。
この修繕が必要な場合は、「そのピアノに拘るか否か」を考えねばなりません。
”極度に調律が不安定”な場合を除けば、応急処置で対応するのが現実的かもしれません。
アクション
「タッチがモタモタする・重々しい」
この症状がある場合は、アクションに関する修繕は必要でしょう。
逆を言えば、上記症状がなければ「アクション関連」修繕は限定的ものとなります。
「タッチがモタモタする」場合の修繕は、各部品の繋ぎ目にある”センターピン”という軸ピンを交換します。
部品そのもの -ハンマーやウィッペン- を交換する必要はありません。
また、フレンジコードやブライドルテープといった”紐”が切れている場合もあります。
繊維の劣化によるものですが、劣化の状態によって交換をした方が良いケースもあります。
判断の決め手は「88か所(1つの音につきひとつづつ付いています)のうち、何か所切れているか」
例えば10か所以上が切れていたり、劣化が激しい場合は交換が推奨されます。
概算の料金は・・・、
センターピン交換 ¥25,000~¥50,000
フレンジコード交換 ¥25,000~¥30,000
ねずみ被害で主要なフェルト部品がボロボロ、という場合を除いてこうした修繕で十分ですね。
鍵盤
鍵盤で必要な修繕は1つだけです。
「ブッシングクロスの交換」
ブッシングクロスは、”鍵盤がスムーズに動くため”のクッションの役割を果たしています。
鍵盤の中には金属のピンが通っていて、そのピンと鍵盤が直接こすれないように、フェルトが貼られているのです。
長年使っていると、このフェルトが「すり減る」「硬くなる」「つぶれる」。
すると鍵盤が「グラグラする」「動きが鈍い」といった不具合が出てきます。
修繕費用の概算は・・・、
¥50,000~¥55,000
ブッシングクロスは「一番摩耗が激しい」部品です。
修繕の優先度としては高いほうになります。
その他(調律・クリーニングなど)
今回例に取った修繕内容で、一番高額な項目が「外装全塗装修理 ¥400,000」です。
これはこのピアノが「木目のピアノ」だからです。
木目のピアノの全塗装修理とは、
古くなった表面を一度きれいに落とし、木目を活かしたまま塗り直す修理。
木目のピアノは、木の模様そのものがデザインなので、「ただ色を塗ればいい」というものではありません。
その分、黒いピアノに比べるとその工程も質的に異なり、高額になります。
ただ、「極端に日焼けしている」「打ち傷が酷い状態」でない限り、通常のクリーニング作業でも綺麗になります。
木目に限らず、クリーニング費用の概算は・・・、
¥40,000~60,000
傷の修繕は別途料金が発生します。
一か所¥10,000~¥20,000が相場でしょう。
「調律=音程を合わせる」「整音=音色を変える・揃える」「整調=タッチ・弾き心地を揃える」は基本的なメンテンナンスになります。
”長年ご実家で眠っていたピアノ”を想定する場合、この基本的な項目は必要かと思います。
「調律をせず20~30年放置したピアノ」の修繕費用、”妥当な費用”は果たしていくらか
上記の修繕・メンテナンスを念頭に、私の経験上申し上げますと・・・、
¥80,000~200,000
だと思います。
「あくまでも、趣味の範囲内でピアノを楽しみたい」
「実家のピアノを、子供のレッスン用に使いたい」
「この先も20年~使っていきたい・弾いていきたい」
こうした使用用途・目的のイメージを想定して・・・、という前提です。
音大受験を考えている、あるいは音楽を職業として考えている、
こうした方は必然的に修繕内容も異なりますので、費用も変わってまりいます。
この話の本質は「ピアノの状態」と「今後のピアノとの付き合い方」等、総合的に考えると「プランA(フルスペックのオーバーホール)は必要ない・現実的でない」ということです。
もちろん、こうしたフルスペックのオーバーホールが、長い目で見て(50年~100年という時間軸)有効であることは私も承知しています。
現場の技術者・調律師も「難しい修理・修繕をしたい」という、職業的プライドからフルスペックのオーバーホールを薦める傾向にあります。
そのアプローチは否定されるものではありません。
ただ、お客さまにとってピアノは「数多ある生活を構成する要素の1つ」であることが普通です。
これも私の経験上申し上げられることです。
技術者はやよもすると「独善的」になりがちで、そのお客さんにとって「ピアノ」はどんな位置づけなのか?の想像力がやや働かないことがあります。
プロのピアニストと一般的なピアノ愛好家では、ピアノへ求める性能も、それにかけられる予算も違って当然です。
<問い合わせ・ご相談>
長年放置してあったご実家のピアノに関するご相談は(フォーム)
最後に・・・
少し変わった角度からのお話を。
かつて大量生産された「良い時代のピアノ(昭和50年代)」は、すごい勢いで海外流出、あるいは廃棄されています。
国内に残っている「質の良い中古ピアノ」は、少なくなっている。
今年「中古ピアノ」に関する記事を書きました。
その際、財務省のデータ(財務省「貿易統計」(中古ピアノの輸出台数))を調べてみました。
日本からは年間約3万5000台ものピアノが海外へ輸出されています。
一方で、新品の生産数はその3分の1程度(こちらは経済産業省:生産動態統計より)。
毎年数万台の『日本の家庭で眠っていたピアノ』が、海を渡って海外へ流出しているのが現状です。
状態の良い『メイド・イン・ジャパン』の中古ピアノは、世界中で奪い合いになっています。日本国内で良質な中古に出会えるのは、実は年々難しくなっているのです。
私の肌感覚とも一致します。
10年前、中古ピアノ販売会社の「在庫状況表」はA4サイズの用紙20枚分くらい。
今は3枚程度でしょうか・・・。
| カテゴリ | 昭和54年頃 (ピーク時) |
現在 (2023-24年) |
現状 |
|---|---|---|---|
| ①新品販売 | 約35万台 | 約1.1万台 | 約1/30に激減 |
| ②中古販売 (国内) |
– | 約2.0万台 (推計) |
現在の市場の主役 |
| ③海外輸出 (中古) |
ほぼなし | 約3.5万台 | 国内流通より多い (流出中) |
※財務省「貿易統計」(中古ピアノの輸出台数)https://www.customs.go.jp/toukei/srch/index.htm
状態の良い日本製のピアノは、日本国内よりも海外で高く評価され、どんどん海を渡っています。
『日本の良い中古ピアノ』は、希少な資源になりつつあります。
あなたの実家に眠る、そのピアノも希少かつ質の良いピアノの一台です。
<問い合わせ・ご相談>
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この記事を書いた人

野沢 信之(のざわ のぶゆき)
ピアノ調律師(国家資格)
あん摩マッサージ指圧師(国家資格) 鍼灸師(国家資格)
1975年生まれ。千葉県出身。明治学院大学卒業後、出版社に3年半勤務した。その後、千葉県にあるピアノ工房にて5年勤務の後独立。
現在「野沢ピアノ」代表。公共施設・一般家庭のピアノメンテナンスを行っている。「お子さまのピアノレッスン」に関するピアノのご相談へアドバイスすることが多い。
治療院「けあ・あんだんて」代表でもある。一般社団 障がい児マッサージ普及協会所属。主に「障がいを持ったお子さま」への訪問施術・治療を行っている。
千葉県生涯学習大学講師を含め「地域医療」や「障がい者への理解普及」等の講演活動も行っている。









