最終更新日 2025年11月7日 by nozawa88888@gmail.com

2025年3月1日 日曜日 場所は 板橋区 グリーンホール。

板橋地区のピティナ ステップが行われ 、調律に伺いました。
今回は 、ヤマハ銀座の鍵盤 営業部 石井さんからの依頼です。

集合は 午前9時。
私が会場に入った際には、松浦先生はすでに到着していて会場の設営などで慌ただしい様子。

この1週間 松浦先生とは事前確認などを含め 、お電話で連絡する機会がございました。
電話が取れる時間帯(30分刻み)などの指定があり、ビキナ ステップの直前、先生方や主催者がどれだけタイトなスケジュールで動いているか、改めて感じる機会ともなりました。
ピティナステップ

手早く挨拶を済ませて 調律 をします。

ピアノはヤマハの グランドピアノ「c 5」

やや緊張感に包まれた 中、講師 スタッフの方々が忙しなく準備をしているのを横目に(もちろんちゃんと調律をしながら)考えます。

ここにいる 「主催者 」あるいは 「参加者 (お子様や親御さんなど)」の労力(時間やお金など)はどこに向かいどう 結実するのか。
つまりは「ピアノを習うことの意義」について。

かつて 全くダメダメな生徒(小学校の6年間でバイエルだけは 卒業)であった私です。
もとより こんな難題について「何かを言える」とも思いませんが、思い出したのはビル・エヴァンスの言葉。
今日はビル・エヴァンスに想いを馳せながら、私の「職業的立場」から考えてみたいと思います。

「ピアノを習うこと」について

ピアノを習うことについて 「普遍的な意義」を見いだすことができなければいけないだろう、と思います。
全員が「ピアノを職業」にするわけではありません。
なれるわけでもありません。

これは私の職業的で立場から言っても、
「考えざるを得ない」
「素通りすることのできない」
問題だろうと思います。

このような問い(ピアノを習うことについての意義とは何か)の答え(これはもちろん私なりの)がなければ 調律 やピアノの調整などできません。
まして 私の場合 「お子様のピアノレッスン 応援します」と標榜しているわけですから。

「音楽表現」と「その奥深さ」を知る

「音楽表現と奥深さ」を知ること
上に記した 問いの一つの答えだろうと思っています。

正直に告白すると、こうしたことについて考えたのは30半ばも過ぎた頃です。
遅すぎますね。
もっと早く気づくべきことです。

このことについて教えてくれた「動画」があります。

ビル・エヴァンスと彼の兄、ハリー・エヴァンスの対談

どうしてこの対談動画にたどり着いたのか、もう忘れてしまいました。
Youtubeの「おすすめ」に出てきた、それだけかもしれません。

ご存じない方のために簡単にご紹介します。
ビル・エヴァンスはジャズピアニスト、音楽に詳しくない方でもお名前は聞いたことがあるのでは?
ジャズの歴史に名を刻むピアニストです。

一方兄のハリーエヴァンスは、プレイヤーでありながら「音楽教師」でもあります。
40分強の動画です。
内容は、「ジャズという音楽とは何か(クラッシックと本質的に何か違うか)」「自身のここまでの歩み」「ジャズ(音楽)を教えること」など、多岐に渡ります。
全ての話題について示唆的で、私にとっては耳が痛い内容もあります。

ここで、ビル・エヴァンスが「I Like New York in June, How About You?」という曲を例にとって話します。

「なんとなくかっこいい演奏を模倣すること」よりも
「初歩的なレベルであっても、それは完全に真実で、完全にリアルで、完全に正確であること」が大切であり
「シンプルでも、それが本物であるなら、そちらの方が良い」ことについて語ります。

動画では、ビル・エヴァンスが演奏しています。
悪い例「派手にガチャガチャと演奏しているシーン」
良い例「シンプルに注意深く音を出しているシーン」

これがとても分かりやすいのです。
何が「良くて」何か「悪い」のか。

完全に真実で、リアルで、正確であること~これらを可能にするピアノの構造について~

さて、ここで恐れ多くもビル・エヴァンス言うところの”基本”をピアノの構造に落とし込んで考えたいと思います。

「複雑で・派手で・ガチャガチャとした」演奏ではなく
「シンプルで・抑制的で・整然とした」演奏

この演奏を可能にする「構造」がピアノには存在します。

ピアノのタッチの深さ(鍵盤の沈み込む量)は「規定値」があります。
10㎜です。

では、鍵盤を何mm押し下げると音がでるのでしょうか?
当然10㎜と答えなくなりますが、違うのです。
答えは8㎜。

鍵盤深さ調整

鍵盤の深さ規定値は「10㎜」、微調整によって弾き心地が変わります

鍵盤が全部押し下がる前に(底に着く前に)音が出ているのですね。
専門的には「アフタータッチ」と言ったりします。

「鍵盤を全部押し下げなくても音が出る」ことに何の意味があるのか?

このことは「演奏上」あるいは「発音上」どんな意味があるのか。

押し下げる深さによって「音色が変わる」のです。

例えば、指先のスピードをコントロールし、「鍵盤が底に着く寸前で力を抜くように弾く」と、ハンマーが弦を優しく撫でるように叩き、柔らかく美しい音色が生まれます。
この繊細なコントロールこそが、アフタータッチの領域であり、表現の源泉。

つまりは指先のコントロールによって、音色をつくることができる・・・、ということでもあります。
ピアノの先生からも「アフタータッチ」を意識して弾くよう指導された方もいらっしゃるかと思います。
この「アフタータッチ」とは「鍵盤の底」を意識することでもあります。

「1つの音を出すのに意識的であること」、これがビル・エヴァンスが言うところの「基本」の1つと言えるだろう、と思います。

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このことは、ピアノから離れても十分示唆的であろうと思っています。

「シンプルでも、それが本物であるなら、そちらの方が良い」
という彼の言葉は、全ての表現行為に普遍的に言えることだと思っています。

「鍵盤の深さ、わずか10㎜」に”表現の無限の奥深さ”があります。
ピアノレッスンに通うお子さまが、この「表現することの愉しさ」を感じてくれることを願っております。

この記事を書いた人

野沢ピアノ 代表
野沢 信之(のざわ のぶゆき)
ピアノ調律師(国家資格)
あん摩マッサージ指圧師(国家資格) 鍼灸師(国家資格)

1975年生まれ。千葉県出身。明治学院大学卒業後、出版社に3年半勤務した。その後、千葉県にあるピアノ工房にて5年勤務の後独立。
現在「野沢ピアノ」代表。公共施設・一般家庭のピアノメンテナンスを行っている。「お子さまのピアノレッスン」に関するピアノのご相談へアドバイスすることが多い。

治療院「けあ・あんだんて」代表でもある。一般社団 障がい児マッサージ普及協会所属。主に「障がいを持ったお子さま」への訪問施術・治療を行っている。
千葉県生涯学習大学講師を含め「地域医療」や「障がい者への理解普及」等の講演活動も行っている。