最終更新日 2025年2月1日 by nozawa88888@gmail.com

タッチを軽くする:~モーメントアームの観点から~

「鍵盤の重さを軽くしてほしい」
「タッチを軽くしてほしい」

調整の中でも比較的多いリクエストですね。
ピアノのタッチの重さは「演奏性」と「音楽表現」に大きく影響します。

重すぎると「疲れる」し、軽すぎると「表現力」が出しにくい。

今回は、カワイのアップライトピアノの鍵盤が重いと感じていたお客様 -小学6年生の男の子-からのご依頼を受けて、少し特殊な調整を行いました。

「モーメントアーム」~力学・運動学の観点から~

鍵盤の重さを調整する方法はいくつかあります。

今回は「モーメントアーム」に着目しました。

タッチを軽くする モーメントアーム

女の子(作用点)シーソー中央(支点)男の子(力点)

あなたは「男の子」です。
シーソーの向かいに座っている「女の子」を持ち上げます。

今よりも「軽い力」で持ち上げるには、どうすれば良いでしょう?

答えは、「シーソーの一番奥に移動する」です。

これと同じことを「ピアノの鍵盤」で再現します。

鍵盤の場合、
「鍵盤中央部」から
「指がタッチする位置」までの距離を長くする。

そうすれば”より少ない力”で鍵盤を押し下げることができます。

つまり「タッチが軽くなる」。

「運動学」「力学」
-ピアノの鍵盤・アクションの構造を理解するには必要なもの-
の表現を借りるなら、「モーメントアーム(レバーアーム)を長くする。

実際の作業 ~パンチングクロス・クロスを”カット”~

カワイピアノ タッチ重め

1970年代の「KAWAI」は重めです

1970~80年代製造のKAWAIのアップライトピアノは、もともとタッチが重めに設定されている傾向があります。

同じ年代のYAMAHAと比べると、よりその「重さ」を感じます。

ブッシングクロスカット

ブッシングクロスのカット(鍵盤側)

今回は、「パンチングクロス・クロス」の鍵盤側を半分カット。
このパンチングクロスは、シーソーの「支点」に該当する部分です。

カットするのは、私が予備でもっている「パンチング・クロス」。
オリジナルは別で保管します。

モーメントアームを長く

”モーメントアーム”を長くする

こうすることで、鍵盤の「傾き角度」をつけます。

結果としてモーメントアームを長くすることで、「タッチを軽く」します。

鍵盤の支点が奥に移動するイメージです。

この方法の「利点」は

この方法は「一般的」ではありませんが、特定の状況では効果的な手法です。
”利点”を申し上げますね。

「その他の”整調項目”の変更不要」
「元に戻すことも可能(元のパンチング・クロスに戻す)」

軽くなりすぎたり、鍵盤のぐらつきに繋がったりするので細心の注意が必要ですが、「元に戻せる」という安心感もありますし、何より”その効果を実感いただける”ことも大きい。

“タッチを軽くする”にはいくつかの方法がございます

パンチング・クロスをカットする以外にも、

「バランスピンやフロントピンの調整」
「キャプスタンボタンの調整」
「ダンパースプーンの”掛かり”調整」

最終的には「鍵盤鉛調整」など。

それぞれの利点と欠点があります。
ピアノの状態やお客様の好みに合わせて、最適な方法を選択することが大切なのは言うまでもないことです。

「タッチを軽くする」ことの”意義”を考える

学齢期のお子さまにとって、「タッチを軽くする」ことの”意義”は何でしょう。

「表現力の向上」
「技術習得の促進」
「負担軽減とモチベーションの維持」

どれも正解だと思います。

この3つは、個別に論じられるべきのもでもなければ、論じられるものでもないと思いますね。
すべて繋がっている。

「タッチを軽くする」ことで「指運びの身体的・心理的負担」を減らし、「表現することの愉しさ」を感じて欲しい。
そう思っています。
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最後までお読みいただきましてありがとうございます。
「タッチを軽くしたい」ことのご相談・お問い合わせご遠慮なく。
どうぞお気軽に。